米軍爆撃機が広島に原爆を投下した三日後の1945(昭和20)年8月9日午前零時、ソ連軍は満ソ東部国境から一斉に満州国に侵攻した。

日本政府はかねてからソ連政府に英米との和解の斡旋を申し入れていたが、その日午前零時、モスクワで佐藤駐ソ大使に手渡されたのは対日宣戦通告文だった。

 

四方面から雪崩れ込んだソ連軍は地上80個師団、40個戦車大隊、機械化旅団、32個飛行師団、自走砲を含む戦車5250輌、飛行機5071機で、総兵力175万人だった。

 

日本は1941(昭和16)年6月頃、ソ連軍の進入防止を目的に、いわゆる「関東演(関東特別演習)」を大義名分に30万以上の兵力を満州に送り、関東軍の兵力を70万人規模に拡大していた。

しかし南方戦線の劣勢を受け、精鋭の大部分は南方へと動員され、兵力は四分の一にまで減少していた。

わずか13個師団のみになっていた関東軍主力には、もはやソ連軍を迎撃するだけの力はなく、展開されたのはただ壮絶な玉砕と挺身肉体の抵抗のみだった。

 

ソ連の満州占領後、日本人に対して掠奪と強制連行を行った。

シベリアに連行された日本人は60万人から70万人と推定されている。

終戦翌年の1946(昭和21)年10月末頃までの内地への引揚船乗船者数は101万人だった。

それは全満州の日本人の65%にあたる数だが、引き揚げはほとんど民力によって成し遂げられたものだ。

 

ソ連軍は満州全域の重要産業施設を戦利品として掠奪し、本国へ搬送した。

アメリカ・ボーレー調査団の報告によれば、それは約8億9500万ドルの巨額に相当するものだという。

 

敗戦国兵士を強制連行して国内で強制労働に従事させるのがソ連の慣行だった。

当時すでにドイツ人35万5000人、イタリア人22万人、フランス人2万人などがソ連に連行された。

 

満州国はソ連軍による関東軍撃滅によって崩壊した。

そもそも満州国は、関東軍がソ連軍の南下を防ぐことによって、初めて成り立つことができる国家であり、王道楽土だったのだ。

 

1945(昭和20)年8月15日の終戦の詔勅とともに、関東軍は満州における権限を失った。

その後間もなく長春、瀋陽(奉天)、鞍山などの諸都市に進駐したソ連軍は重要な鉱工業施設、交通施設を接収し、日本人捕虜とともに本国へ搬送を開始した。

その搬送作業にあたった機関は満鉄である。

旧満鉄社員や在留日本人の帰国が始まったのは翌46(昭和21)年になってからだ。

山崎総裁の帰国は日本人の引き揚げがほぼ終了した47(昭和22)年7月である。

 

一方中国共産党は、ソ連軍が満州に侵攻し始めた翌日、満州の占領を指令している。

当時の満州の重工業は、全中国の約90%を占めており、事実上、「中国の生命線」だったのだ。

 

号令一下、共産党軍は各地から続々と満州に侵入し、ソ連軍と入れ替わるかたちで共産党軍が入ったが、10月には国民党軍が進駐してきた。

このため共産党軍は都市から農村、さらには山林へと撤退したものの、やがて反撃に転じる。

本格的な国共内戦は満州の遺産をめぐって開始されたのである。

初期の戦闘では米式装備の精鋭部隊を投入した国民党側が優勢で、共産党軍は鉄道沿線と大都市から撤退した。

 

46(昭和21)年1月10日、終戦後から始まった国共内戦は一時停戦したものの、二月上旬、再び戦闘が開始された。

三月、ソ連軍が満州から撤退し、接収した関東軍の兵器の一部が共産党軍に渡った。

 

6月、全国規模の内戦に発展した。

7月から翌47(昭和22)年6月までの一年間で、国民党軍は112万人が殲滅されている。

当時、満州では、国民党軍約48万人、共産党軍約46万人で兵力は互角だったが、47年の夏季攻勢から共産党軍が優勢になり、36都市を占領するように至った。

それに対して国民党側は九つの大都市を守っていただけだった。

 

8月、国民党の蒋介石は陳誠を東北軍政総司令官に任命した。

蒋介石は48(昭和23)年元旦の全国軍民に対する声明で、「一年以内に共産党軍主力を消滅させる」と公言したものの、戦局は挽回できず、軍事作戦総指揮者は衛立煌に取って代わられた。

 

共産党軍は8月、東北野戦軍を編成し、10月以降の長春、瀋陽などの攻防戦で次々と勝利を収め、満州はほぼ共産党の掌中に収まった。

49(昭和24)年2月の林彪らによる党中央軍事委員会への報告によれば、殲滅した国民党軍は40万人以上で、共産党軍の死傷者は6万人になっている。

ただし膨大な民衆の被害状況については、算出することはできない。

 

中国人同士の空前の殺し合いだった国共内戦により、満州は中華世界に編入されることとなった。

それは悲惨な中国戦後史の序章だった。

 

 

(黄文雄著「日本の植民地の真実(扶桑社)」より)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送