満州国が東亜大陸において実現させた近代社会について、戦後まったく無視されてきた側面のひとつが、警察制度の確立である。
そもそも満州の地に法治がなかったことはもとより人治すらない、軍閥、匪賊が支配、跋扈する無法地帯だった。
そのような状況を一変させ、近代的法治社会の基礎を築き上げ、産業の発展を軌道に乗せたのが関東軍であり、新設の警察制度であった。
満州の治安は、関東軍と警察によってようやく維持され、近代産業が軌道に乗ったのである。
満州国の国造りは、わずか十三年半だけで中国の併合によって夭逝した。
国家としては、じつに短い一生であった。
しかしながら、軍閥、匪賊社会からわずかな期間で一挙に近代社会へつくりかえた歴史は、抹殺されるべきものではない。
その歴史的事実は、近代アジアにおける、あるいは世界の奇跡ともいえるだろう。
明治維新以降、溌剌(はつらつ)とした新興民族日本人のエネルギーは、第二の維新として新しい台湾をつくり、そして第三の維新として近代的な朝鮮半島をつくった。
さらに、その力の総結集が、満州国の近代社会建設であった。
アジアでは、ここ一世紀半以上にわたって、日本人以外にはいかなる民族もそういった国家建設の力を発揮してはいない。
では、このような日本人の爆発的なエネルギーの源泉は、いったいどこから来たのか、残念ながら、日本人は誰一人として解明してはいない。
それだけでなく、直視し、評価しようとさえしない。
日本人の適応力は極めて強く、自己改革も極めて早い。
それは台湾、朝鮮半島、満州国経営をみてもよくわかる。
いつも経営方式を反省しながら試行錯誤しつつ変えていくので、変化に早く適応し、合理的にして常に時代を先取りしながら進んでいった。
それは日本人が伝統にこだわらず、常に斬新な発想と創新を志向しているからだろう。
明治維新以降だけでなく、こんにちも昭和維新や平成維新へと、つねに維新にエネルギーを傾けていってほしい、と筆者は心から願うのである。
(黄文雄著「満州国の遺産(光文社)」より)
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